セロイドリポフスチン沈着症ってどんな病気?原因や症状、治療について

セロイドリポフスチン沈着症ってどんな病気?原因や症状、治療について

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セロイドリポフスチン沈着症は、一部の犬種で確認されている遺伝性疾患です。
通常は脳内酵素の働きで分解されるはずの代謝老廃物が除去されず、中枢神経障害を起こすのが特徴的。
今回は、セロイドリポフスチン沈着症の原因と症状、好発犬種や治療法、予防法を解説します。

【原因】脳内酵素が生まれつき欠損・機能低下している

【原因】脳内酵素が生まれつき欠損・機能低下している

セロイドリポフスチン沈着症は、脳の神経や網膜などにセロイドリポフスチンが蓄積して起こります。
セロイドリポフスチンとは脂質酸化物、色素の一種であり、通常は犬の脳内で酵素によって分解・除去されるもの。
しかし、染色体の異常によって酵素が欠損していると、老廃物が蓄積してしまい、神経細胞が侵されていきます

なお、セロイドリポフスチン沈着症はライソゾーム病(リソソーム蓄積症)の一種でもあります。
ライソゾーム病は細胞内の小器官であるリソソーム内の酵素が欠損・機能低下すると発症する先天性の代謝異常症です。
柴犬に多くみられる「GM1ガングリオシド―シス」は、ライソゾーム病の中でも比較的よく知られています。

【症状】主に神経的な異常がみられる

【症状】主に神経的な異常がみられる

セロイドリポフスチン沈着症の症状としては、以下のようなものが挙げられます。

セロイドリポフスチン症の症状

  • 攻撃的になる
  • うろうろと落ち着きがない
  • 音に過敏になる(怖がる)
  • 歩き方がぎこちない
  • うまく歩けない、起き上がれない
  • トイレのしつけを忘れる
  • 方向感覚がなくなる
  • 震え・けいれん
  • 視覚障害
  • 頭を振る

これらの症状は、1~2歳頃に見られ始めます
生後しばらくは目立った症状はなく、動物病院で検診を受けるだけでは全く分かりません。
しかし、老廃物の蓄積が増えるにつれて脳細胞のダメージは進行し、徐々に運動能力の低下や神経症状がみられます。
その後、症状が進行すると寝たきりの状態になり、多くは3歳になる前に亡くなってしまいます

セロイドリポフスチン沈着症になりやすい犬種

セロイドリポフスチン沈着症になりやすい犬種

セロイドリポフスチン沈着症は、様々な犬種で発症します。
特に多いとされているのはボーダーコリーですが、国内ではチワワの発症も確認されています。

セロイドリポフスチン沈着症は遺伝性の疾患であり、親から子への病気が引き継がれます。
純血種の犬は同じ品種同士のみ掛け合わされていることから、近親交配による遺伝子変異が起こりやすいとされています。
変異した遺伝子は交配の過程で固定化され、特定の遺伝性疾患を発症する可能性が高くなるのですね。

【治療法】有効な治療は見つかっていない

【治療法】有効な治療は見つかっていない

セロイドリポフスチン沈着症の有効な治療法は、残念ながらまだ見つかっていません
進行性かつ致死性の病気であるため、動物病院では症状を和らげる対症療法を行うことになるでしょう。

ちなみに、人間の医療ではライソゾーム病の治療法として「酵素補充療法」があります。
これは、生まれつき欠損している酵素を点滴で血管内に補充する治療法で、日本でも行われています。
生涯にわたって行う治療法であり、ライソゾーム病の主な治療法として知られていますが、犬に行われることはありません

【予防】リスクのない繁殖計画を立てること

【予防】リスクのない繁殖計画を立てること

今のところ、セロイドリポフスチン沈着症の予防法はありません。
遺伝性疾患のため、交配の際はセロイドリポフスチン沈着症のリスクがない繁殖計画を立てることが大切です。
セロイドリポフスチン沈着症を発症した血縁がいる場合は、繁殖に使用することは避けましょう。

なお、セロイドリポフスチン沈着症の確定診断は病理組織検査で行われます。
人間の場合、生前でも脳の病理組織検査はできますが、獣医療の分野ではまだ一般的ではありません。
そのため、セロイドリポフスチン沈着症かどうかという診断は、症状の経過や神経学的検査、犬種や発症年齢を元に行います。
ただ、最近では遺伝子検査によってセロイドリポフスチン沈着症を調べられるようになってきており、獣医療の発展も進んでいます。

セロイドリポフスチン沈着症になってしまったら

セロイドリポフスチン沈着症になってしまったら

セロイドリポフスチン沈着症を発症した場合、少しでも犬が快適に過ごせるよう生活のケアを行います。
具体的には、視力が低下してきたら床に物を置かないようにする犬の生活スペースはできるだけ静かな場所にするなど。
最終的には寝たきり状態になるため、床ずれができないよう、こまめに体の向きを変えてあげることも大切です。

知的障害や痴呆症状が出てくると、毎日の食事介助も必要になります。
自分の意思で食事を摂れなくなるため、鼻先にフードを近づけたり、フードはスプーンで与えたりしましょう。
症状が進行し寝たきりになったら、流動食をスポイトやシリンジに詰めて与えてください。

セロイドリポフスチン沈着症の場合、動物病院では安楽死を勧められるケースもあります。
発症後の生活は犬にとっても飼い主さんにとっても辛いものであり、進行に伴ってケアの負担が増えていくからです。
夜鳴きや排泄障害などは大きな負担になるため、一人で抱え込まず、獣医師や動物看護師に相談してくださいね。

お互いにとって最良の選択を

お互いにとって最良の選択を

セロイドリポフスチン沈着症は致死・進行性であり、発症後は数年で亡くなる恐ろしい病気です。
予防法・治療法はまだ見つかっていないため、発症した場合はQOLの維持を目的としたケアを行います。
日本国内では発症例自体それほど多い病気ではありませんが、気になる様子がみられたら動物病院で各種検査を受けましょう。

もし愛犬がセロイドリポフスチン沈着症だと分かったら、今後の生活について獣医師とよく相談することが大切です。
愛犬はもちろん、飼い主さんにとって最良の選択ができるよう、時間をかけて話し合ってくださいね。