犬の視覚の話~愛犬の目にうつっている世界はどんなもの?

犬の視覚の話~愛犬の目にうつっている世界はどんなもの?

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私たちの生活には、赤や黄色など様々な色彩がいたるところに溢れています。
そのため、自分たちに見えているものは犬にも見えていると思ってしまいがちですが、それは大きな間違い。
実は、犬たちが普段見ている世界というのは、私たち人間に見えるものとは大きく違っているのです。
今回は、犬の視力や色の認識能力など、犬たちの持つ視覚についてご紹介します。

犬の視力は人間の1/6程度しかない

犬の視力は人間の1/6程度しかない

人間の視神経は約120万本あるのに対し、犬の視神経は約16万本と1/6程度しかありません。
視神経とは、12対ある脳神経のうち「視覚情報(網膜が受けた光刺激)を脳に伝える神経」のことです。
つまり、犬は私たち人間に比べて圧倒的に視力が悪く、五感のなかでも視覚の重要性が低いといってよいでしょう。
犬は非常に優れた嗅覚を持っていますが、視覚に関してはあまり発達していないのですね。

なお、犬の視力は「昼間の明るい時間帯では0.2~0.3」ほどといわれています。
30cmから1mくらいまではある程度はっきり見えますが、それ以上はぼやけて見えることが多いでしょう。
なお、対象物と近すぎても焦点が合わせづらくなるため、興味のあるものは少し離れて確認する傾向があります。
「動体視力」は人間の4倍もある犬ですが、静止しているものを見るのは比較的苦手なのですね。

犬が暗闇でも普通に動き回れるのはなぜ?

犬が暗闇でも普通に動き回れるのはなぜ?

視力こそ良くない犬ですが、夜目に関しては圧倒的に人間よりも上です。
というのも、犬の目にはタペタム層という器官が備わっており、わずかな光さえあれば暗闇に感じることはないから。
タペタム層とは網膜の裏側に存在する、いわゆる光の増幅装置のことで、人間には存在しません。

タペタム層を持つ動物としては、犬の他、猫・キツネなど、夜行性の動物が多い傾向があります。
暗い場所で犬の写真を撮ると目が光って映りますが、これはタペタム層にフラッシュが反射することで起こります。
対して人間の場合は、フラッシュによって網膜の血管が照らされるので、暗闇での写真は赤目に映るのです。

ちなみに、シベリアンハスキーには、タペタム層がありません。
タペタム層を持たない主な犬種としては、北欧原産の犬・かつ瞳の色がブルー系の犬種があげられます。
これらの犬種が暮らしていた環境は白い雪が1年中降り積もっていたため、夜間でも十分な明るさがありました。
つまり「光を増幅する必要がない環境だった=タペタム層が退化した」というわけですね。
また、明るい色の目は褐色よりも光を通しやすいため、そのままでも十分な光を取り入れられていたのです。

犬がはっきり識別できる色は青と黄色のみ

犬がはっきり識別できる色は青と黄色のみ

知っている方も多いかもしれませんが、実は犬は青と黄しか色を識別することができません。
というのも、私たち人間と違って犬の網膜には「色を感じる細胞」がほとんどなく、種類も1つしかないのです。
つまり、紫は青っぽい色、緑やオレンジは黄色っぽい色、赤は黒っぽい色として見えるということですね。

では、いったいなぜ犬は青と黄色しか識別することができないのでしょうか?
生き物が色を感じるためには、網膜に存在する錐状体(すいじょうたい)という細胞が必要です。
錐状体には青・緑・オレンジに反応する3種類があり、それぞれが働くことで多種多様な色を感じることができます。
犬の場合この錐状体が非常に少なく、かつ青と黄色にしか反応しないため、細かい色の識別が困難なのです。
ちなみに、数ある色のなかでも、特に犬が苦手とするのは「赤系」と「緑系」の識別だといわれています。
特に赤色は犬にとって認識が難しい色であり、赤っぽい色はすべてグレーに見えているんですよ。

犬にも近視・遠視ってあるの?

犬にも近視・遠視ってあるの?

個体によっても異なりますが、犬の近視・正視・遠視は犬種によってある程度決まっています。
前提として、近視は遠くがぼやけ、遠視は近くのものがぼやける状態のことをいい、ほとんどの犬は正視か近視です。
ところが、アメリカの研究によると「近視・あるいは遠視の傾向は犬種特異性がある」ことが分かりました。

近視傾向にある犬種

  • ロットワイラー
  • ミニチュア・シュナウザー
  • ジャーマン・シェパードなど

遠視傾向にある犬種

  • グレー・ハウンド
  • アフガン・ハウンド
  • ボルゾイなど

遠視傾向にある犬種は主にサイトハウンド系であり、遠くまで見渡すことのできる鋭い視力を持っています。
一般的には目が悪いといわれる犬ですが、犬種によって見える世界は異なるということですね。

視野の広さは犬種によって異なる

視野の広さは犬種によって異なる

長年の選択繁殖の結果、犬の見た目や骨格は犬種によって大きく異なるようになりました。
そのため、当然ながら全体の視野は犬種(眼球の位置)によって多少のばらつきがあるといえるでしょう。
目が顔の中心についているほど視野は狭く、パグやペキニーズ、ブルドッグなどの短頭種の視野は約220°ほど。
対してサイトハウンド系の面長な犬種の視野は270°程度と、馬などの草食動物に近いものがあります。
ハウンド系のように昔から狩猟犬として活躍してきた犬種は、より立体的にモノを見ることができるというわけですね。

見える世界の違いについて、よく考えてみよう

見える世界の違いについて、よく考えてみよう

犬の世界は思った以上に素朴で色あせているので、私たち人間にはとても味気なく感じてしまうでしょう。
しかし、嗅覚や聴力といった感覚が研ぎ澄まされている犬たちにとって、視覚はそれほど重要なものではありません。
犬と人間では見ている世界が違うことをよく理解して、ぜひ日々の生活に役立ててくださいね。